平成生まれが平成の終わりに色々考える

近代史を振り返るとかじゃなくて、漠然と思った事など。

歪みなく生きた漢、ビリー・ヘリントン(1639文字)

 7月14日はアメリカの元ポルノ俳優ビリー・ヘリントンさんの49歳の誕生日です。…ってなるはずだったのですが、今年の3月2日に交通事故で48歳の若さで亡くなってしまいました。「兄貴」の愛称で慕われていた彼の突然の訃報にネット界では驚きと悲しみに包まれました。

 ここまで「当然ご存知ですよね?」って感じで話を進めているが、おそらく大半の日本人は「誰だそいつ?」状態だと思う。いくらネットの世界で有名だからといて決してYahoo!ニュースのトップを飾るような知名度はなし、年末に特集される今年の亡くなった著名人特集で大杉漣さんや西城秀樹さんや桂歌丸師匠と並んで取り上げられる訳でもない。しかし日本のネット動画文化に多大な影響を与えたのは事実であり、ネットの歴史書を作るのであれば当然偉人クラスの扱いで記述されるだろう。彼はそれぐらい凄い人だ。

 主にニコニコ動画でセクシャルな内容を示唆するタイトルの動画を再生すると、タイトルと全く違う筋骨隆々な兄貴達が取っ組み合っているゲイポルノ動画が流れる「釣り動画」として有名になった。後にゲイポルノでありながら内容のコミカルさがウケてしまい本編動画を切り貼りしたおもしろ動画や、兄貴達のセリフやロッカーや床を叩く音、尻を叩く音(通称:ケツドラム)を使ったハイセンスな動画『ガチムチパンツレスリングシリーズ』を投稿するブームが起こる。特に「空耳」が流行り、兄貴の代名詞でもある「歪みねぇな」はYou got me mad now.の空耳である。兄貴以外の登場人物も基本的に空耳から命名されることも多い。兄貴の対戦相手であるダニー・リーこと「木吉カズヤ」は「どうも、キヨシさん」「あぁん?カズヤ君柄パン?」といった空耳から命名されている。余談ではあるが福島のとある消防署に火の用心の為のポスターとして兄貴の似顔絵を寄贈した人がいてネット内では大盛り上がりしたが、数日後には撤去されてしまったりもした。

 言ってしまえば兄貴をおもちゃにして、ある意味「ゲイをバカにする文化」がスタートと言っても過言ではない。本来ならば米国のゲイビデオ会社や出演俳優達から怒られてもおかしくない。ところが驚くべきことに兄貴本人からニコニコ動画にアプローチをしてきたのだ。2008年のニコニコ大会議(冬)に本人名義でメッセージと花を送ってきた挙句、翌年グッドスマイルカンパニーでまさかのフィギュア化が決定して来日までしてきたのだ。まさに「人間の鑑」の権化の様な人だ。その後も度々ニコニコ動画のイベントの為に来日をし、2012年に千葉幕張メッセでのイベントニコニコ超会議の超パーティーでは1万2千人の観客による兄貴コールは一介のポルノ俳優とは思えない光景だ。

 ゲイビデオをおもちゃとして扱ってきたことを否定しないし、自分を守る為の肯定に聞こえるかもしれないが、この一連の流れって日本のLGBT普及や認知に関して何かいいヒントが隠れているような気がする。当事者からすると迷惑な話なのかもしれない。だけども自分にとっては確かに導入は笑えるネタとしておもちゃ的側面が強かったが、兄貴きっかけでゲイが身近なものになった感じがした。きっと兄貴ファンにはそんな人も多い気がする。

 この兄貴ブームは後に日本以外でもブームになり、お隣中国でも日本以上の盛り上がりを見せ、兄貴自身も中国に何度も訪れてファンと交流をしてたりもしていた。ニコニコ動画では毎年大晦日に人気投稿者が集まって男尻祭称して長尺の合作動画を投稿するが、2017年投稿の【合体】国際的男尻祭2017‐DREAM COME TRUE-【10周年記念】では世界20か国60名の参加者が集まる世界規模のイベントへと発展していった。

 兄貴は「Live Better」という言葉を残している。レスリングシリーズ的な翻訳の仕方をすると「歪みなく生きろ」なのがだ、そう思えるような人生を送れるように自分も生きたいと思いました。R.I.P(1639文字)